ICカード化される香港IDカード
港の住人が携帯を義務付けられている香港IDカードに、ICカードが導入されることとなり、すでにその配布が始まった。ICチップにはどのような情報が記録され、それによって香港住人の利便性はどのように向上するのであろうか。本稿では、プライバシー保護に配慮しつつICカードの導入を決めた香港の取り組みについて紹介する。
IDカード携帯が義務付けられている香港
香港の住人は約700万人である。そのうち 11歳以上の住人は、海外からの駐在員も含めて香港IDカードを申請し、つねに携帯しなくてはならないことになっている。IDカードには氏名、生年月日、顔写真などのほか、香港ID番号が記載されており、日本で論議の多い国民総背番号制がすでに実施されている。
役所への申請、銀行口座の開設、家を借りる、携帯電話を買うなどの際はIDカードの提示とコピーの提出、書類へのID番号記入が求められる。日本で言えば認め印のような感覚である。街角で警察官にIDカードの提示を求められている人の姿も時折見かけるし、日本人駐在員でもまれにIDカードの提示を求められることがあるようだ。
香港―中国本土間の飛行機や船が発着する空港や港では、香港籍をもつ住人はパスポートではなくIDカードにより出入国(域)が審査される。私たち外国籍の場合はパスポートが必要であるが、IDカードを提示することで出入国カードの提出は免除される。
IC化で広がるIDカードの用途
この香港IDカードがICカードに変更されることになり、2003年6 月から配布が始まった。約3 年間後にはすべてのIDカードがIC 式になる予定である。
香港政府のWebサイト(http://www.smartid.gov.hk/en/faq/index.html)によれば、新ID カードはカード左側に金色のICチップが見えるほかは、見たところ従来のものとさほど違わないようである(図1 参照)。しかし、利便性の点で格段の差がある。
ICカードへの切り替えと、カードに保存する情報に関しては大きな議論があった。ICカード化の当初の目的は、住所や電話番号をはじめ血液型、病歴などあらゆる情報を保存することで利便性を高めようということにあった。しかし当然ながらプライバシー保護を求める声が強まり、当初の構想は大きく後退した。結局、新IDカードには、カード表面に記載されている情報のほかは、顔写真のデジタルイメージと両手親指の指紋(香港の住人はIDカードの取得時に指紋を採取される)だけが保存されることになった。香港籍でないカード所有者の場合は、これに香港への滞在条件が加わる。
新IDカードは、図書館の利用カード、インターネットショッピングや電子申請の際の認証カード、2006年からは運転免許証としても使用されることになっているが、最大のメリットはやはり出入国審査の簡便化であろう。まだ詳細はアナウンスされていないが、 2004年末にはセルフサービスで出入国審査ができるようになるという。
香港は中国への、とくに深センや広州など華南へのアクセス口であり、またアジア有数の金融センターでもある。香港を拠点に中国をはじめアジアで活躍するビジネスマンは多い。2002年の実績では、年間1 億6 千万人以上、1 日あたり約44万4 千人が香港に出入りしている(http://www.immd.gov.hk/ehtml/facts_2.htm)。
現在、香港住民の出入国に際しては、係官がIDカードをカードリーダーで読み取りながら出入国審査を行っているが、これがセルフサービスによって行えるようになれば、香港政府にとっては人件費削減効果が得られるばかりでなく、利用者にとっても待ち時間が限りなく短縮されるという大きなメリットが得られる。
ICカードで先を行く香港
香港では、電車、バス、フェリーなどの料金をオクトパスというICカードで支払うシステムが1997年9 月に導入されて大成功を収め、世界から注目を集めた。オクトパスカードは、いまではコーヒーショップやコンビニエンスストアなど小売り店での支払いにも利用できる。また高速道路の通行料金をICカードで支払うシステムはすでにそれ以前から導入されている。日本でもここ数年、同様のIC カード導入は始まっているが、公共システムへのICカードの導入に関しては香港がつねに先を歩んでいる。
ICカードは、多くの情報をICチップに書き込めば利便性は高まるが、必ずプライバシー保護が問題になる。しかし、保存する個人情報は最小限にしたまま、カードに搭載したアプリケーションを利用してさまざまなサービスを提供できることから、ICカードは大きな可能性をもっている。
日本でも、ITによる利便性の向上とプライバシーの関係は解決しなければならない問題である。このためにも、香港のIC式IDカードの今後の行方は注目する必要がある。
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